東大探検隊

―第28回― 御殿下(ごてんした)

「御殿下」というミヤビな名前を持つ場所が本郷キャンパスにあります。御殿下と言うからには、かつて加賀藩上屋敷の御殿があったところから下ったあたりという訳なのでしょう。だとすると、この言葉からイメージ(妄想?)するのは、御殿のほうから漂ってくるお香の匂いや奥女中たちが歩くときの衣擦れの音といったところでしょうか。とにかく、なんとなくきらびやかな世界を思わせる響きです。何と言っても加賀百万石ですから御殿も他の大名家のものより壮麗だったのでしょうし。

しかし現在の「御殿下」は、お香ではなく汗、衣擦れではなく擦り傷に縁の深い場所となっています。体育館、プール、そしてグラウンド(写真1)を備えた一大スポーツ施設の名称が「御殿下記念館」なのです。東大生が「御殿下に行く」と言うのは、部活の練習をしたり、プールで泳いだり、ジムで体を鍛えたりする時。残念ながら、御殿下に行っても、もはや加賀百万石の雰囲気を味わうことはできません。

ただし、江戸時代は無理でも大正の雰囲気は味わえます。御殿下記念館の向かいには、関東大震災で多くの建物が倒壊する中で運良く残った「理学部化学東館」(写真2)があるからです。1916年(大正5年)の建築です。関東大震災後に建てられた校舎が茶色いタイル張りなのに対して、この建物は赤い煉瓦づくりでレトロな雰囲気を漂わせています。本郷キャンパス内に現存する最古の大学校舎だということです。

詳しい背景はわかりませんが、御殿下記念館自体も、かつての煉瓦づくりの建物の残存部分をうまく活用して建てられています(写真3)。写真で言うとアーチ部分とその周りの煉瓦は古く、それ以外はおそらく記念館を建てる際に新しく付け加えられた部分なのでしょう。スポーティーな御殿下エリアは、実は本郷キャンパス内で(赤門を除けば)一番レトロなところなのです。





写真1



写真2



写真3


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